御老公の御膳、いや御前である。2004/05/31 23:17


午後、強風と蒸し暑さで夜よく眠れずにぼーっとした状態でTVをつけたら「水戸黄門」の再放送をやっていた。西村晃が黄門様だった頃のもので、風車の矢七も健在だし悪代官から手下の岡っ引きから「お馴染みの顔」がぞろぞろだし、代官の奸計にはめられて殺人の汚名を被って脱藩した上許嫁で殺したことになっている武士の娘に父の仇呼ばわりされる正義感の強い浪人は森次浩司だし、これだよこれこれ!的配役。やはり東野英二郎と西村晃の黄門様が一番好きだ。東野さんは気さくな爺さん的キャラクターだがしっかり威厳と品格があるし、西村さんは(新黄門になった時の予告で黄門様の衣装を着て颯爽とローラースケートで走られた時はどうしようかと思ったが)上品さと厳しさの中にウィットとお茶目なところがあってまさに好対照だったと思う。一話完結で勧善懲悪という単純明快さが売りとは言え、レギュラー陣と悪役やゲスト陣の芸達者振りがあるからこそ楽しんで見られたのだなあと懐かしんでみたり。

西村さんの後の黄門様はどうもぱっとせず(俳優の実力云々ではなく黄門様としてという意味で)見なくなってしまったが、これは主役だけでなく他の配役や脚本などが自分的に面白くなくなってしまったのも大きい。かつては水戸黄門とほぼ交互に放映されていて個人的にはこちらの方が好きだった「大岡越前」にしても、最後の方の何部かは(若くして亡くなった方も多かったのでやむを得ないとは言え)レギュラー陣の入れ替わりは激しいわ脚本は面白くないわ撮り方がホームドラマみたいだわ衣装のセンスは妙だわでやはり耐えられなくなってしまった。そう言えば西郷輝彦の「江戸を斬る」というのもあってこれも結構好きだったのだが、ヒロインの松坂慶子が有名になり過ぎたせいか割と早く作られなくなったような。今思えば面白いうちに終わって良かったのかも。

結局「水戸黄門」の方は紆余曲折の後東野さん時代の「助さん」でその後次々と人気シリーズのタイトルロールを演じて「時代劇の顔」になった里見浩太郎が下克上(?)で新黄門様に納まり、若い世代の視聴者どころか昔からのファンにまで見捨てられかけていたシリーズを何とか立て直したらしいが、先日初めて半分ほど見たその新シリーズも個人的には何だかなあ、な印象だった。確かに里見氏は時代劇畑の人だし立居振舞いや殺陣(というか棒術と言うか)は特に文句ないのだが、基本的に彼は助さんでも長七郎でも大石蔵之助でもあまり変わりないような気がするのもあって、これって黄門様なのだろうか、と首をひねってしまうのだ。

レギュラーやゲストの若い衆もどうも仮装しているようにしか見えないし、年輩の俳優陣が「時代劇」しているだけに妙にちぐはぐ。「代官の悪だくみで藩のお墨付き取り消しになりそうな父親を取りなしてもらうため代官の屋敷に奉公する商家のお転婆娘」というパターンはありがちなのだが、その娘がどう見てもお転婆と言うよりただの礼儀知らずな馬○娘なので同情も応援もする気になれない。お父っつぁんは真面目で人柄もいい商人らしいのだが、一人娘可愛さに大枚はたいて阿蘭陀かどこかに留学でもさせたので日本の礼儀作法や階級制の知識が身につかなかったのだろうか。

「水戸黄門」や「大岡越前」がつまらなくなり始めた頃から他の時代劇にも何となく変化が見え始めていて、どうも業界全体が時代の流れに合わせて「現代社会にも通じる新しい時代劇」を作らねばという雰囲気だったのかなと思う。いわゆる時代劇離れが進んでいたのもあったのかも知れない。しかし大抵の作品はただ人気俳優や現代風テーマをそのまま突っ込んだだけという感じで、いくら何でも江戸時代にこんな設定はないだろうとか主役の殺陣がふにゃふにゃだとかそもそも演技がどう見ても現代劇のノリだとか、突っ込みどころ満載のものが多かった記憶がある。時代劇のお馴染み俳優ばかり使う必要はもちろんないのだが、時代背景とか役柄をしっかり理解した上で演技する役者を使ってくれと思ったものだった。

そんな中で当時の社会形態や風俗をしっかり描きつつ現代にも通じるテーマを手堅い配役で展開した「鬼平犯科帳」や同時間帯の時代劇は、原作の良さもあるのかも知れないが(読んだことがないのでよく分からない)制作スタッフの時代考証や世界観がしっかりしているのだろうと思う。時代劇なのにエンド・テーマにジプシー・キングスのギター曲という選曲にも驚いたが、これがまた四季折々の江戸の風物詩にしっくり合っていて上手いなあと思ったものだった。あとはNHKの「金曜時代劇」も地味だが堅実な作りで配役もいいものが多いと思う。ただ現在放送中の「御宿かわせみ」は個人的に高島礼子の「るい」がちょっと...かなり...馴染めないのだが。中村橋之助の東吾はいい感じかも。今はひと頃に比べて時代劇自体かなり減ってしまったようだが、面白くてかっこいい時代劇シリーズをまたどこかで作ってくれないものだろうか。