スイーツの憂鬱2005/12/01 23:54

しばらく前に英語の「リスペクト(respect)」という単語の乱用に納得が行かないという話(2004年6月9日の記事参照)を書いたが、ここ最近やはり聞く度に気になる単語に「スイーツ」がある。多分雑誌の表紙で最初に目にして「??」と思ったのが最初だったような気がするが、その後やはりあちこちの雑誌や書店、民放の夕方の「ニュース」番組の食べ物特集などで目に(耳に)つきはじめたのだったと思う。「リスペクト」はさすがに毎日そこかしこで行き当たる確立は低いが(それでも一頃はしょっちゅう聞いたから気になったわけだけど)、「スイーツ」の場合そもそも自分が食べるの大好きなので料理関係の記事や番組に進んで注意を向ける癖があるわけだから、遭遇する確立も高いわけだ。

これも単に今だけ流行っている言い方なのか、グルメとかヘルシーのように既に定着してしまったのか分からないが、明らかにしばらく前までは使われていなかった(と思う...)単語が今では猫も杓子もスイーツスイーツ状態になったのは、最初に誰かが意図的に、おそらく繰返して使ったのを周囲が真似しはじめたことでどんどん広まったのだろう。例えばお菓子屋さんで働いていて自分が使わなくてもしょっちゅう耳にしていたり、一般の人でもTVや雑誌を日常的によく見ている人は頻繁に見聞きするうちに無意識に語彙に取り入れているということはあるだろうと思うが、自分の場合最新情報に疎い生活を送っているせいでこういう急な流行(?)がぽつぽつ目について気になるのかも知れない。以下「スイーツ」に適応能力が発揮できない化石人間の長ったらしくてうっとうしい呟きになるので、別にスイーツで全く違和感ないですよ、という方は回れ右をお勧めします。

さてこのメディア全盛時代なので、短期間に急にある言葉が頻繁に使われるようになるという場合何の業界にせよその分野でそれなりに権威のある人か、または人気のあるTV番組や雑誌で使用されて広まった可能性が高いかな、ととりあえず頭に浮かんだ料理関連記事が多い雑誌を検索してみたところ、『オレンジページ』のバックナンバーの表紙を見る限りではどうやら一昨年(2003年)の夏から秋あたりに「スイーツ」が登場しはじめている模様。同じ年の春頃はまだ「○○のお菓子」という普通(自分の感覚では)の書き方になっている。2004年に入ってから頻繁に「スイーツ」が登場しているようだ。ふーむ、せいぜいここ1,2年かと思ったらもう少し以前から使われはじめていたのかな。...人より情報が遅いだけか。大半の人たちはメディアで繰返し聞いていればほとんど意識もしないうちに「今はこう言うのか」と理解して違和感がなくなるのかも知れないが、自分の場合、特に言葉遣いに関しては一度違和感を覚えたものは「そのうち慣れる」というのが余りない質なので、気になるものはやはり気になる。自分の言葉の知識や使い方自体かなり怪しいくせに人様のことをとやかく言うのもおこがましくはあるのだが、逆に自信がないからこそ世間で(この場合多分に「メディアで」かな)やたらともてはやされる言葉が気になるのかも知れない。で、とりあえず「何がそんなに引っ掛かるのか」問題点を挙げた上でそれぞれを検討してみた。

1. なぜ日本語の「菓子」ではダメなのか。

洋風でも和風でも中華風でもケーキでも団子でも広い範囲で使える「菓子」という単語がちゃんと日本語に存在していて、ついこの間までは当たり前にそっちを使っていたのに、なぜここに来ていきなり「スイーツ」なのか。特に洋菓子を指しているのかと思うと「和スイーツ」などとも言うようだし(この間TVで聞いた)。何じゃそりゃ。「和風の洋菓子」ということかとも思ったが、やはりどこかの番組で「日本の伝統的なスイーツですねぇ」とか聞いたような記憶も。和菓子じゃダメなんかい。個人的にここに更に「和テイストのスイーツ」とか言われるともう机に頭をぶつけたくなる。

2. なぜ常に複数形なのか。

細かいことにこだわるなと言われそうだが、気になる人間には非常に大きい違和感なのだ。多少なりとも(多少かい)英語に縁がある職にあるせいもあるかも知れないが、別にこ難しいことではなく単純に落ち着かない。確かに英語のsweetsには総称して「甘い菓子類」という意味があるし、実際日常会話で普通に使われるが、この場合あくまでも一般的総称として使われるので複数形なのであって、例えばある特定の種類の菓子の説明に日本語で「このお菓子は...」と言う時に、これをそのまま「This sweet is...」という言い方はしない(はず)。「This kind of sweet is...」とは言うかも知れないが、その場合その菓子を含めた「同種の菓子」というやはり漠然としたニュアンスになると思うし、一種類なので当然単数形(のはず)。だが特定の一種類を指す場合、this cakeとかthis puddingとかもっと種類を絞った呼名を使うのが普通だろう(多分)。しかし食べ物関連の番組などでレポーターや料理人本人が話しているのを聞くとどうも「このスイーツの特徴は」とか「(菓子の名前)は気軽に作れるスイーツです」などという使い方をしていて、これがどうにも違和感が拭えないのだ。重箱の隅を突くようで(自分には重箱の蓋の上に載っかっている如しなのだが)申し訳ないけど一種類なのになぜ複数形?なぜそこまで無理(あくまでも自分の感覚で無理)して「スイーツ」という単語を使いたがる?と思ってしまうのだった。

3. なぜ「スウィーツ」ではなく「スイーツ」なのか。

更に重箱の隅のようで恐縮なのだが、やはり自分には非常にむず痒いと言うか聞き心地が妙だ。「スイーツ」が頻繁に使われるようになる以前から形容詞としてのsweetを「スイートな気分」とか「スイートチョコレート」とか書くのはよくあったが、「スイート」というとどうしても別の単語suiteが浮かんでしまう。suiteはホテルのスイート・ルームなどで分かるように「一揃」「一式」という意味で、つまりスイート・ルームは寝室だけの一室ではなくて居間などの続き部屋のある贅沢なタイプになる。話が逸れるが昔よく「スウィート・ルーム」と書かれているのを目にして、そういうタイプの部屋は大抵「新婚向け」のような書かれ方をしているので、そうか新婚さんでらぶらぶ甘いからスウィート・ルームと呼ばれるようになったのだな、と勝手に納得していた。後でそれは甘くも何ともないsuiteだったと知ったときは結構なショックだった。それはともかく、sweetsの場合例えば有名なパティシェとか料理研究家とかオシャレな人たちが最初に「お菓子」ではないカッコイイ(と思われる)呼び方を始めたとすると、普通少なくとも「スウィーツ」と言わないだろうか。しかしsuiteの表記がスウィートだったりスイートだったりするのに対して、「お菓子」の意味で使われる最近のsweetsはどれも「スイーツ」で統一されている。TVなどで発音しているのを聞いてもほぼ間違いなく「スイーツ」と言っている。...なぜだ。

そんな疑問を日々抱いていたある日、いつもの『きょうの料理』をつけた。この日の放送分は手元のテキストに載っていて、自分好みなお菓子のようだったので見てみようと思ったのだった。嬉しいことにアナウンサーが後藤さんですよ。講師の人は初めて見る人だったのだが若くても有名らしい。ふーん。...とか思っていたら、この先生が見事に「スイーツ」の人だった。しかもまさに「和テイストのスイーツ」タイプ。ぎゃふん。もちろんご自分が今調理中のお菓子を「このスイーツ」とおっしゃる。しかもその単語を連発するだけでなく、何だかこうお使いになる言葉がどれも今時のオシャレな、それこそ「いま人気のスイーツ特集」とかやりそうな雑誌に載っている「素敵なナチュラルライフを送る有名人(今は「セレブ」とか言うんですか)」のコメントのようだ。よく見る料理人さんとか料理研究家の人って、普通に話していても料理に親しんでいる人らしい独特の表現とか食べ物に対する姿勢が垣間見える言葉があって面白いなあ、と感じることが多いが、この先生に関してはどうもそういう感慨と言うか共感がない。どこかで聞いたような綺麗な言葉を並べるかと思うといかにも今時の若者のノリで話してみたり、何だか人格が一定しない。それに何か、何となく偉そうなのは気のせいですか。言葉の端々がさり気なく失礼なような気が...

そんな違和感を感じつつ見ていると、二つ目のお菓子を作り始める前に既にできあがったものを「ほらほら、こんななんですよ」とわざわざスプーンですくって見せ...たと思ったらいきなり自分の口に。

     こら!!

後藤さんを差し置いて自分で食べるのか!もしかするとある程度台本があるのかも知れないけど後藤さんかなり本気で「ああっ、食べちゃった!」と動揺なさってたじゃないですか!後藤さん試食大好きなのに可哀相に!(←すっかりファン)しかもその後「いかがですか」と訊ねられて「ヤバイ、うまい」

...『きょうの料理』で料理の感想を求められて「やばい」とおっしゃった先生を初めて見ましたよ(注:ぐっちゆうぞおさん除く)。その後できあがった後に後藤さんが試食できる時間もちゃんとあったが、もうこの時点で自分のこの先生に対する印象は落ちるところまで落ちた。お菓子はおいしそうだし作ってみたいけど、多分今後この先生が出ている回は避けるだろうな。と言うか実際次の日の放送(数回連続だった)は見る気になれなかった。(後藤さんは見たいのに...)で、その個人的印象がよろしくないこの先生がとにかく「スイーツ」を初めオサレなアナタのための料理雑誌にずらずら書いてある如き耳触りはいいが意味が上滑りしているような言葉を連発していたお陰で、なるほど、特に必要もないのにやたらと妙なカタカナ言葉を流行らせるのはこういう人たちなのかも知れん、と思うようになってしまい、更に「スイーツ」が受入れられないものになってしまった。どうしてくれるんですか○×先生。

昨日のホットケーキの素の残りで再びパンケーキを目指してみた。...味は「バニラ風味」ホットケーキなわけですが。でもりんご煮やケーキの素についていたメイプル・シロップでおいしく頂きました。しかし実際、ホットケーキって一人で作るものではないような。一枚ずつフライパン(この場合パエリア鍋だけど)を熱して、一度火から外して冷まして、弱火で焼いて、また熱したフライパンを冷まして...とかやってるうちに先に焼いたのはどんどんコールドケーキになってしまう。ホットプレートで焼きながら食べるか、複数で交互に焼く人と食べる人になるとかしないと焼き立ての幸せは味わえないかも。とりあえず次はちゃんとしたパンケーキを作ろう。いやホットケーキだってフライパンで作るんだからパンケーキの一種だけど、甘いのだけじゃなく色々載せられる生地を。