昼下がりの回想2007/08/11 23:58

昼時、スパゲティでも作ろうかねぇと冷蔵庫を開けるが、昨日の時点で実家からの青物野菜を綺麗に食べ尽くしていたので具にする材料がない。いや知ってたけど。仕方ないのでとりあえず玉葱を炒め、生姜も少し刻んで一緒に炒め、塩胡椒とトマトケチャップ&醤油少々で味付けしてスパゲティに絡め、最後に青じそをわさわさ載せて無理矢理昼ごはん。...とりあえず緑色が入ってると少し気分的に落着くんですよ。まあそこそこおいしいけど妙にスパイシィであった。生姜入れた上に黒胡椒を粗引きでごりごり入れたからね。...夕方青物野菜を仕入れてくるか...


こういういかにも「材料なかったので」的食事、特にトマトケチャップ味スパゲティなんか食べていると思い出すのが、以前にも掲示板か何かで触れたような気がするので「聞いたことあるな」という方もおいでかも知れないが、かつて英国旅行中にスコットランドのエディンバラ(Edinburgh)に行った時のこと。たまたま同時期に大学院の後輩も英国を巡っていたので、途中で合流して数日間一緒に行動しようということになり、友人(後輩)と彼女がアルバイトで家庭教師をしていたというお嬢さん(大学生になったばかりか、推薦入学が決まった高校生だったかも)とロンドンで待ち合わせ、まだ行ったことのなかったエディンバラに行くことに決まったのだった。で、現地に着いてまずは宿探しの段になったのだが、ここで一つ問題が。はっきり憶えていないが、お嬢さんが何かの理由で一時的に所持金が極端に少ないとかで、できるだけ宿代を節約したい情況だったのだ。普段自分一人で旅行する時は、ホテルほど贅沢はしないけどある程度寛げて価格も断然手頃なB&Bを泊まり歩いていたのだが、そういう事情があったのでエディンバラでは旅行社案内所で紹介してもらったユースホステル、それもできるだけ安いところを選択。中心街の目抜き通りのすぐ裏手だったのだが、これがもう何というか凄いところだった。

まず入った途端に、着いたばかりだかこれから発つんだかな人達のでかいバックパックがどかどかどかどか置いてある入口。横の狭ーい受付に出てきたのが、スキンヘッドに鼻ピアスだったかドレッドヘアに妙な香水プンプンだったかグランジ・ロック・ファッションで髪バサバサの無気力そうなにーちゃんだったか忘れたが、とにかく宿泊施設の従業員として出て来られたら「げっ」と思うような風体の青年。いや話してると多分ふつーのイイ奴なんだろうなと思ったけど。

で、とりあえず食堂件交流スペース?のようなホールに入ってみたらこれがまた凄い。薄暗いホールにうちの田舎の小学校で使っていたような重くてでかい木製のテーブルと同椅子(今の学校で使っているようなのとは違う黒くてがちっと固い昔懐かしいような木)がどかどかごちゃごちゃ置いてあって、テーブルの真ん中にはワインの空き瓶にぐっさり挿した蝋燭が、火をつけて溶け落ちた鑞をそのままにしてあるため蝋燭の周りや空き瓶にだらだら流れ落ちたまま固まり、とんでもない異形の物体と化している。明らかにわざと取らないんだろうなこれ。溶けた分だけでも蝋燭一本分の量じゃおさまらないし。極め付けが壁一面に描いてある大壁画。青を基調にした全体的に重い(重厚とかいうのとはまた違うんだけど)色調で、画面手前から奥にうにょうにょ続く道を青年の後ろ姿が歩いている絵なのだが、昼なんだか夜なんだか、なんつーかもう山とか空とかが全部うにょらうにょらどわどわしてて物凄い世界。ゴッホの「星月夜」は明るい絵だったなあ、と懐かしくなるような。こういうのがきっと今どきの若者に人気のアートなんだろうなきっと(←自分だってそれなりに若者だったわけだが)...とは思えど、合わないもんは合わないんだよう。怖いよここ。

とか何とか言っても、まあ一晩だけだし安いし何とか無事に凌げればいいか、と覚悟を決めていると、何やら友人とお嬢さんが「今日の夕食は心配しないで!」と言う。何でもお嬢さんは(なぜか)既ににんにくと乾燥スパゲティをひと袋(オリーヴ油とかもあったかも。なぜそんなものが鞄の中に)手に入れていて、後はこれから買い出しに出て材料を買ってきて、ホステルの台所で二人でスパゲティを作ってくれると言う。何だかよく分からないが二人ともとても張り切って今日は任せて!と言うので、任せることにした。で、買物に...ということでわたしも一緒に行ったのだが、エディンバラに着いたのが午後で、宿を探したり色々手続きしたりしているうちに既に時間は夕方。エディンバラは大きな街だが、それでも(少なくとも当時は)5時頃にはスーパーマーケットや生鮮食料品店はあらかた閉まる。で、結局しばらく探した後、開いていたのは郵便局。いや、郵便局兼雑貨店。英国ではよく見る、日用品や雑貨、食料品などの店で簡易郵便局の業務もしているというもの。しかし食料品と言ってもお菓子やスナック、缶詰くらいで、生鮮食品なんか置いてるわきゃない(たまに桃くらいは売ってるところもあるけど)。しかし他に店はないし、何しろ「大丈夫任せて!」と言われているのでどうするんだろう...と思いつつ漠然とさまよっていると、お嬢さんがえらいでかいコーンドビーフ(コーンビーフ)の缶(日本で見るものの優に2倍はある)を持ってきた。「これ、使えません?」ゑ。いや。えーと。  「いいですよね、これ」  えー...  そうね。他にないし。

で、コーンドビーフを買って意気揚々と店を出るお嬢さん。えっ、それだけ?えっっ??どどどうするのそれで?と思っているうちにホステルに戻り、お料理タイム。先に見た部屋(3人ばらばら、わたしは一番大きな15人部屋)でも「どう見てもここに住んでる人達がいる」と思ったが、台所にも個人の名前が書かれたでかいケースに調味料一式が入ってステンレスの棚にどかどか置いてある「業務用厨房」て感じのところで、てけとーにその辺に置いてある調理器具を使っててけとーににんにくをスライスしスパゲティを茹でる。で、にんにくを炒めたところにコーンドビーフの塊投入。うげげ。油をどぼどぼ使ってほぐす。うぎゃぎゃ。どうしようこれ...と呆然と見ていると、友人が「なんかもう一つ欲しいですよね」いやそりゃ一つでも二つでも材料があればね。ないけど。「えーと(見回す友人)  ...あれ、ちょっと借りちゃいましょう」友人、棚の上の個人用調味料箱からトマトケチャップのボトル(大)を手に取る。わあぁぁあぁぁ。  すみませんケチャップの持ち主の人...

かくして、3人分のにんにくとコーンドビーフのケチャップスパゲティ(大盛)ができあがった。さっきの凄い絵がある食堂に盛り付けた皿を運び、既に蝋燭が灯してあるテーブルに座る。ちなみにこの夕べのひとときをこのホステルでは「キャンドル・ナイト」と呼んでいるらしい。何か違う気がするのはわたしだけですか。で、おおーまた鑞がだらだらいっとるのう、とか思いつつもさもさ食べていると、後から一人で隣に座ったグランジ風長髪お兄さんが時々こっちを気にしている素振り。見ると彼もこちらと似たり寄ったりなものをもそもそつついている。ああ、ここじゃ皆こんなもんなんだろか、こんな物凄いすぱげちーイタリア人に怒られるよー(←?)と思ったけど、実はまさに若者の集うホステル的な食べ物を作ってしまったのかも(いや自分は麺を茹でたくらいであまり関与してないけど)、と何となくうら寂しい気分に浸っていたら、お兄さんはまたわたしを見、次にわたしの皿をじっと見ると目を逸らし、   「はーー(溜息つきつつ哀しげに首を振る)」 あんたに言われたくないわ。←いや何も言ってないが。

これで絶望的な気分になったわたしは、反対側の隣でお兄さんに気付かない二人をよそにとにかくもうここを離れねば!ちゃっちゃと食べて離れねば!!とケチャップとにんにく味のコーンドビーフもさもさスパゲティを可及的速やかに口に押し込み、確か二人より先に部屋に戻って二段ベッドの上段で泣いた(嘘)ような記憶がある。あの時の(他人からちょろまかした)ケチャップスパゲティよりは、今日の昼のシソケチャップスパゲティの方がまだ味わって食べられたねえ...と思ったり。この比較自体なんか哀しい気もするけど。まあ、あれも今となってはいい思いd...   いや、「いい」はないな。少なくとも。

で、夕食は鶏もも肉の照焼き風?丼。汁が煮詰まってえらく黒くなったけど小麦粉をまぶしてから熱したので柔らかくできた。残った油と汁でセロリとマイタケを炒め、白胡麻を散らしてご飯の上へ。少しは涼しげかと思ってガラスの皿に盛ってみた。


今日は買物に出た時間が遅かったので、そうだもう夕焼けかも!と出てみたらちょうどビルの向こうに沈む直前だった。今日は何となく優しげな空。