AORの季節 ― 2004/06/26 23:13
夕べのTVK(テレビ神奈川)のSony Music Accessは毎年暑くなると一度はやる「AOR特集」だった。AORとはadult oriented rockの略だそうだが、これはいわゆる和製英語で海外ではこんなジャンル自体ないらしい。区分としては70-80年代のボズ・スキャッグス、クリストファー・クロス、ルパート・ホームズ、エア・サプライ、TOTO、ボビー・コールドウェルetc.etc...のギターばりばりのワイルドなロックとはまた違う、メロディアスでちょっと洒落た感じの「オトナの音楽」的なものをまとめて、日本の業界がAORというジャンルの中で扱ったということらしい。どちらにせよ当時からのファンはまだまだ根強いようだし、今聞いてもあまり古く感じない曲も多いので当時を知らない層にも受けるのか、繰り返しこういうベストアルバムのようなものが発売されるということは「出せばそれなりに売れる」ということなのだろう。
かく言う自分もこの手の音楽は好きなので、特集などがあるとついつい見てしまってやっぱりいい曲だなーと公式サイトなど探してしまうのだが、上に上げたミュージシャン全員がまだしっかり現役で活動中なのもまたすごいと思う。驚いたのがルパート・ホームズで、どうやら現在は音楽家としてより劇作家・脚本家・小説家として活躍しているらしく、最新の推理小説の批評などがサイトのトップ頁に躍っている(最初同名の別人のサイトかと思った)。"Him"や"Escape"など往年のビデオを見てもどうも歌手と言うより学者とかもの書き風だなぁと思っていたら、元々そういう才能があったのか。あとTOTO、リードシンガーにそれこそ80年代に在籍していたボビー・キンボールが戻ってきているようでこれもびっくり。...当時より渋くていい感じかも。
ゆうべの特集では、最近ベスト・アルバムが出たとかでギルバート・オサリヴァンも流れた。この人の一番有名な曲はやはり"Alone Again"だと思うが、彼も現役で活動中だし、日本でも結構CMで曲を使ったりしていて(公式サイトになぜか彼の曲を使った日本のビールのCMが)人気もあるようだ。が、個人的にこの人は曲を聞く度に一体どういう人なのだろうと思う。学生時代あたりまでは例によって「綺麗な曲、結構好き」程度の認識だったのだが、ある時"Alone Again"の歌詞の一部に「...ちょっと待て」と思った。「塔のてっぺんに上って飛び下りる」...?それまでは歌詞も断片的にしか聞かず失恋か何かの切ない歌かと思っていたのだが、気になって調べてみたところどうも「花嫁に土壇場で逃げられ絶望して自殺しようとしている男」の歌らしい。しかもその回想によると彼の父親が亡くなった時65歳の母親はショックのあまり口をきかなくなり、その母親も亡くなった時主人公は一日中泣き通している。ちなみに父親の死に際しても人目を憚らずおんおん泣いている。母親が65歳ということはその時点で息子の彼も結構いい歳の成人のはず。...これはちょっと、何と言うか情緒的に問題ないだろうか。挙句に教会の結婚式参列者がすっぽかされた彼を憐れんで「これはそっとしておいてやるのが一番」と引き揚げて行った後、彼はまたもや「当たり前のように」一人になり、自殺を考える...という内容らしい。いや、もう、お気の毒様としか...
曲の調子が淡々とした感じなので、まさかそんな悲惨と言うかすごい内容とは思わなかった。気になって他の曲の歌詞も色々調べたところ、どうもどれも「一癖ある」ようなのだ。やはりヒットした"Clare"も単なるラヴ・ソングかと思うと、曲が進むうちに明らかに「幼い少女といい大人の男の歌」なのが分かる。「他人の言うことなど気にしない」と言いつつ「レイおじさん、あたしと結婚してくれる?」と無邪気に言うクレアちゃんに苦悩するおじさん...これはかなり危ない。これも淡々とした歌い振りと綺麗なメロディだが、それで目くらまししたって危ないものは危ない。英国のミュージシャン(オサリヴァンはアイルランドだと思うが)はXTCとか10ccとか曲がポップでも歌詞を聞くととんでもなかったりなんじゃそりゃだったり油断できないが、日本では「彼女と一緒に聞く音楽」扱いされている(らしい)ギルバート・オサリヴァンがこんなすごい歌詞揃いだったとは驚いた。ちなみにもっと以前から彼の名前は本名なんだろうか、ギルバート&サリヴァン(ヴィクトリア朝時代に活躍した喜劇オペラの作者コンビのウィリアム・シュウェンク・ギルバート卿&アーサー・サリヴァン卿、「戦艦ピナフォア」や「ミカド」など代表作多数)のもじりじゃなかろうかと思っていたのだが、この歌詞の件を知ってからますます疑い(?)が濃くなってきたのだった。公式サイトにもなぜかバイオグラフィが載っていないので分からない。どなたか真相をご存じの方御一報下さい。
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